――帳簿上1,450台、実地棚卸で1,200台という現実から
1. はじめに
ある工場の設備台帳には「設備総数:1,450台」と記載されていた。しかし年末の実地棚卸において現場をくまなく確認した結果、実際に確認できたのは1,200台にとどまった。残る250台については、紛失したのか、廃棄されたものの記録が更新されていないのか、あるいは当初から実在しなかったのか、その所在は不明である。
これは特殊な一事例ではない。EAM設備管理の分野に11年携わり、1,000社を超える工場を支援してきた中で、繰り返し確認されてきた実態である。
多くの経営者は、自社の設備台帳を「一応整理されている」と認識している。しかし、実際に現場へ足を運び、台帳と設備を一台ずつ照合すると、次の事実に直面することになる。台帳には1,450台とあるにもかかわらず、現場では1,200台しか確認できず、残る250台の所在を社内の誰も説明できないのである。
- 物理的にはすでに廃棄済みだが、システム上は稼働中として記録されたままの設備
- 他部署・子会社への異動、あるいは売却・スクラップ処理がなされたが、台帳が更新されていない設備
- 同一の設備が、複数部門の台帳にそれぞれ重複して記載されているケース
これは単なるExcel運用上の不備ではない。実質的には、数百万円から数千万円規模の設備資産が、管理の目が届かないまま流出している状態に等しい。本稿では、この背景にある三つの構造的な課題を整理する。
2. 台帳がズレていく3つの原因
2-1 Excelは「買った後」を記録できない
症状 — 設備を購入して現場に設置したら、Excelに型式と購入価格を記入し、それで管理は完結したものとみなされている。
要因 — Excelは「導入時点」の情報こそ記録できるが、その後の経過を継続的に追跡する仕組みを持たない。
多くの工場の設備台帳は、型式・購入価格・設置場所といった項目が並び、一見すると整理されているように見える。実際の記載例は、おおむね次のような形式である。
多くの工場の設備台帳は、こうなっています:
| 設備名称 | 型式 | 購入価格 | 稼働開始日 | 保証期限 | 重要度ランク |
|---|---|---|---|---|---|
| NC工作機械 | CA6140 | 約252万円 | 2018-03-11 | 2022-03-10 | A |
| 209号 変圧器T1 | 20910SC001 | 約336万円 | 2024-12-01 | 2028-03-01 | A |
| 209号 10kV高圧配電盤1H1 | 20910SC002 | 約420万円 | 2024-12-01 | 2028-03-01 | A |
| 209号 10kV高圧配電盤1H2 | 20910SC003 | 約378万円 | 2024-12-01 | 2028-03-01 | A |
| 209号 10kV高圧配電盤1H3 | 20910SC004 | 約273万円 | 2024-12-01 | 2028-03-01 | B |
一般的な設備台帳の記載例。項目はいずれも「導入時点」の静的情報であり、稼働後の保守・修理・異動を記録する欄が存在しない。
台帳としての体裁は一応整っている。しかし、いざ次の三点を確認しようとすると、Excelでは答えにたどり着けないことが多い。
- この設備は、過去5年間で何回の保守点検を行ってきたか。
- その間、どの主要部品を、いつ、いくらの費用で交換したのか。
- これまでに修理は何回発生し、直近の故障はいつ、その原因は何だったのか。
そもそもこうした記録がExcel上にでも残っている工場は全体の1割にも満たず、その実態は台帳というより単なる「設備の名簿」にすぎない。数十万円、時には数千万円規模の投資を要した設備であっても、その履歴はExcelのわずか一行に集約され、導入時点の情報こそ記録されるものの、3年、5年と経つうちに更新も追跡もされなくなる。保守・修理・改造・異動・廃棄という導入後の一連の経過は、空白のまま残されていく。
そのため、いざ設備が止まって履歴をさかのぼろうとしても記録はなく、前回対応したのが誰か、いつ部品を交換したのかもわからない。これでは設備を管理しているとは言えず、稼働を運任せにしているに等しい。多くの工場の設備台帳は、型式・購入価格・設置場所といった項目が並び、一見すると整理されているように見える——実際の記載例は、おおむね次のような形式である。
数十万円、時には数千万円規模の投資を要した設備であっても、その履歴はExcelのわずか一行に集約されている。導入時点の情報は記録されるものの、3年、5年と経つうちに、更新も追跡もされなくなる。導入後の保守・修理・改造・異動・廃棄という一連の経過は、空白のまま残される。
2-2 知識がベテランの頭の中にしかない
症状 — 熟練者が在職している間は必要な情報を都度確認できるが、その退職と同時に、設備に関する記録も実質的に失われる。
要因 — 暗黙知が形式知として整備されておらず、経験が個人に張り付いたまま、外に出ていかない構造になっている。
多くの工場には、いわゆる「生き字引」と呼ばれる熟練者がいる。過去の故障履歴、部品の在庫状況、交換時期の目安といった情報は、こうした熟練者に尋ねることで初めて成り立っているのが実情である。
その熟練者が在職している間、設備管理は表面上、問題なく回っているように見える。しかし翌年その人が退職すると、次のような課題が一気に表面化する。
- 20年かけて培われた故障判断のノウハウを、誰が引き継ぐのか
- 過去の故障内容、非標準部品を使った修理の経緯、特定のパラメータ設定の理由を、後任者は把握できているか
- 「どの部品が劣化しやすく、どれは予備を持たなくてよいか」という経験則を、後任者が一から学び直さずに済むか
これは仮定の話ではない。ある繊維工場では、20年勤続した熟練者が退職した後、わずか半年で同じ生産ラインに同種の故障が5回発生した。新任のエンジニアが共有フォルダのExcelをいくら確認しても、そのたびに根本原因にたどり着けなかった。
熟練者が持っていたのは、個人の経験にとどまらない。工場が20年をかけて蓄えてきた無形の資産であり、その人の退職とともに、資産もそのまま消えてしまう。この問題が見過ごされやすいのは、平常時には何の支障も出ないからである。設備の知識を特定の個人に預けたままにするリスクは、なかなか意識されない。
2-3 設備を動かすたびに、台帳が置き去りになる
症状 — 現場のレイアウト変更や設備の移設が行われても、台帳上の設置場所は数年前のまま更新されない。
要因 — 設備の位置・状態・異動に関する情報が人の記憶に頼っており、体系的に追跡されていない。
設備は、稼働の過程で物理的に動いていく。
- 生産ラインの拡張に伴い、設備が第一工場から第二工場へ移設される
- 子会社への貸与により、設備がA工場からB工場へ異動する
- 旧型設備が更新され、新型設備が稼働を開始する
- 改造やアップグレードにより、型式・設置場所・管理担当者が変わる
設備が一度動くたびに、台帳の情報は一つずつ「実態」からズレていく。その積み重ねの結果、台帳上は1,450台と記載されていても、現場で確認できるのは1,200台にとどまり、残る250台の所在を社内の誰も把握できない、という事態が生じる。
さらに深刻なのは、この乖離が各部門に及ぼす影響である。
| No. | 部門 | データ乖離によって生じること | 影響 |
|---|---|---|---|
| 1 | 購買部門 | 現有台数が不明のまま、新規購入に踏み切る | 重複投資 |
| 2 | 経理部門 | 台帳の1,450台を基準に減価償却費を計上する | 過大でも過小でも、いずれにせよ誤り |
| 3 | 設備管理部門 | 棚卸をしようにも数が合わない | 十数名を動員し3〜4日かけて照合しても台数が合わず、しかも誰も原因を追わない |
3. おわりに
以上の三つの課題、すなわちExcel依存による履歴管理の欠如、熟練者の暗黙知への依存、異動・移設情報の追跡不備は、いずれも設備を直ちに停止させるものではない。しかし放置すれば、台帳は日ごとに実態から引き離され、やがて名目だけの記録へと変わってしまう。設備は現場で絶えず移動し続けているのに、データ上では止まったまま。この乖離が続けば、台帳と現場はやがて二つの異なる世界になる。 以上の三つの課題、すなわちExcel依存による履歴管理の欠如、熟練者の暗黙知への依存、異動・移設情報の追跡不備は、いずれも設備を直ちに停止させるものではない。しかし放置すれば、台帳は日ごとに実態から引き離され、やがて名目だけの記録へと変わってしまう。
実態を伴わない台帳は、有事の際、台帳がないことよりもむしろ危うい。誤った安心感を経営に与えるからである。台帳上は1,450台を管理しているつもりでも、実際に現場へ何台あり、どこに置かれ、どのような状態にあるのか、その肝心なところを誰も把握できていない、という事態を招きかねないのである。
御社の設備台帳がこの三つの課題に当てはまっていないか、いま一度点検されることをお勧めしたい。
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